優しい君…
=侑side=
昔の夢を見た。
俺が初めて恋をした日の夢。
初めて誰かを好きだと感じた日の、儚い夢。
*****
それは俺が小学六年生の時のことだった。
「はぁい、みんな、今日、ちょっとだけ社会見学に来た神崎千香ちゃんだよ」
見飽きた担任はそう言って、見たこともないくらい綺麗な顔をしたお兄さんを指差した。
「…、千香ちゃん、とか、言うなよ!」
供託の前で担任はニタニタ楽しそうにほほ笑んで、千香ちゃんと呼ばれた人は不機嫌だ。
「いいじゃん、千香、可愛いんだから!」
「うるせぇ!」
千香ちゃんは拳をあげた。
その腕は綺麗で華奢なのに、大柄の先生が宙に浮いた。
「…すごい」
俺たちは感心した。
「すごい、すごい!」
みんなして、拍手した。
千香ちゃんはそんな俺たちを見て、照れくさそうに笑うと、
「よろしくな」
と言って手を振った。
俺たちは手を振り返した。
「あ、そうだ、俺の名前は神崎だから、みんな、俺のことは神崎って呼んでくれ」
「えー、千香ちゃんがいい」
「うん、千香ちゃんのほうが可愛いもん」
千香ちゃんがいい、それは確かに俺も思った。
みんなして、そうやって口々に言うと、千香ちゃんは「特別だからな!」と言った。
特別…
俺たちはそれがとてもうれしかった。
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