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「いえ、俺が行きますよ? 俺、こう見えて、あまり顔知られてないんで、現場に潜るのなんて簡単です」
やっぱり、きついことかもしれないけど、この厳しい時代、人件費の削除が一番ものをいう。
それはここ丹羽株式でも同じことで、だから、俺は、不要と思われる人間を見つけに行くと提案した。
だいたい、自由すぎなんだよ、この会社は!
絶対にどこかで胡坐をかいているような社員がいるばずだ。
俺と、会長を除いて…だけどね。
「いや、でも実際、これでも回っていかない事は会社的に…」
「え、大丈夫なんですか? このままでも」
「や、やっぱ、ちょっと視察に行ってよ。女装して!」
「は!?」
俺は目の前にいる上司に思いっきりあきれた。
こいつは何を言い出すのか、さっぱり、理解できない。
「千香、怒んないでよ。俺ね、一番確認してきてほしいところがあるんだけど、そこには、ほら、千香に会ったことのある人がいるから、変装してもらいたいな、なんて」
「女装である必要性はないでしょ? 普通に変装でいいでしょ?」
「どうせなら、視察+俺の小説ネタで行こうよ」
ウインクして、会長は笑った。
不気味だ。
「わけがわからん」と俺は返すので必死だったが、
会長は、いつの間にか女子社員の制服を右手に、つい先日の俺の女装姿の写真を左手に、
それはそれは勝ち誇ったような笑顔で、俺をじっと見る。
「喜んで、させていただきたいと思います」
俺は頭を下げた。
完敗だった。
いや、その写真をばらまかれないのなら、なんだってできる気がした。
…本当は少し、こういうことも楽しそうだなとか、考えたりもしたんだけどね。
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