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「じょ、そ、う。女装だよ」
「死ね!」
「ひどい。この丹羽株式をすべる天才会長様に対して」
「絶対にない。だいたい、あんた、BL小説書いてんだけだろ」
「書いてても会長だもん!」
俺はノートパソコンから顔をあげた。
確かに今さっきまで、ちょっとばかり小説書いていたけど、やることはやってるし、此処まで上り詰めるのにも、大変な苦労はしてきたんだ。
うん。
ちょっと、今は、ラクすることを覚えてしまっただけだが…
「この広告打ったのも、この決算資料をまとめたのも、俺なんだぜ!?」
「あー、そうでしたか? 俺にはなんだか、コピーライターとか、会計士的な人が後ろにちらついて見えたりしますが、気のせいなんでしょうね?」
「ぐ…、それは言わない約束でしょ?」
俺は立ち上がった。
千香の顔がさっきよりも近くになった。
なのに、千香は不機嫌な顔をすると、俺から二歩離れて、
「そんなもん、書いていたら、立派な大人にはなれませんよ?」
と、深刻な顔をして言われた。
正直言って、その顔が好きだ。
何かを思いつめたよな。その真っすぐに遠くを見つめる千香の顔。
俺はこの世で一番好き。
そう、この親ばかの俺が息子を差し置いてそう思うくらいなのだから、よっぽどなのだろう。
そうに違いない。
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