日常の泡6
その後、僕は財布を持ってきていなかったことに気づき、後でお金と猫缶を持ってくるからと約束した。
すると、店主は嫌そうな顔すら見せず、袋にコンニャクをいれてくれた。
試食品らしいけど、もしかしなくても幸せが詰まっている。
僕は大切にその袋を両手で抱えて、彼との待ち合わせ場所へむかう。
途中、ふと腕時計を見ると、時間が少しも動いていないことに気付いた。
あれ、と不思議に思いながら、僕は鞄のなかから携帯を取り出し、たった一つしか登録されていない番号に電話をかけた。
だけど、現在その電話は使われていないらしい。
結局、彼はその日、どんなに待っても姿を見せなかった。
「終わらせる前に、終わっていたんだね」
何気なく見上げた夜空は何も語らない。
僕はそれがあたり前だと思いながら、夜の町を歩いた。
携帯の登録は0件。
真っ白な状態。でも、いつか、新しい泡が退屈でしかたない日常にできるよね。
そして、そんな可能性を持った日常が続いていくんだね。
それはなんて幸福なことなんだろう。
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