日常の泡1
No.1 日常の泡
幸せってなんですか?
終わらない日常ですか?
終わりに怯える幸福ですか?
学校帰りにふと気付いたコンニャク屋の看板。いたずらにしては馬鹿らしく、宣伝文句にしては怪しい。
腕時計を見ると、彼との待ち合わせにはまだまだ時間がある。が、実際そんなことは関係なく気になるし、興味がわくのも事実。
その少し古い看板に書かれた「幸せのコンニャク」という商品がどういうものなのか、ということ。
僕はその店の前まで行って、なかの様子を知ろうとした。だけど、扉は閉まっていて、ちっとも見えやしない。かといって、その扉を開ける勇気もなく、僕は立ち尽くした。
すると、急にその店の扉が開き、水まきのバケツを手にした男の人と偶然にも鉢合わせになる。
「こんにちわ」
その男の人は水まきのバケツを手にしたまま、ふにゃっと笑う。どうやら、この店の人らしい。営業スマイル。
「あっはい、こんにちわ」
僕はそれだけ言うと、その場から逃げて帰りたくなった。もしかすると、店の前をウロウロジロジロしていた変な男子学生に見られたかもしれない。
だけど、今、ここで、聞かなければ一生後悔する。
「あっあの、『幸せのコンニャク』って、本当にあるの?」
「はい」
その男の人は僕を客と認識したように手を扉にかけなおす。
「よければ、なかで話しませんか?外はまだ寒いですし」
「じゃっじゃあ、せっかくなので…。でも、待ち合わせがあるんで、長くはいられませんよ」
「それなら、大丈夫ですよ。どうぞ、いらっしゃいませ。風永のコンニャク屋に」
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