幸時・3




チトセが寝息をたてはじめた頃、ミチユキが話したいことがあると言うから、俺はそっとベットを出てリビングへ向かった。

「な、田辺、お前は、何かを忘れたいと願ったことあるか?」

ミチユキが俺の方をじっと見つめてそう言った。
俺は少し驚いた。
ミチユキは絶対にユウキの話をしてくるものだと思っていたからだ。


「……あるよ、忘れたいことくらい」

「それってどんなこと?」

「言えるわけないだろ!」

そう、言えるわけがない。
ミチユキを目の前にして、ミチユキに対するこの想いを忘れたいなんて…言えない。
言えるなら、言えたなら、また別の方向へ物事は動いてしまうだろう。


「…俺は知りたかったんだけど、駄目かな? 俺、田辺のこと本当に好きなんだよ」

だから、何か辛いことがあったら、少しでも分かち合ってあげたい、なんてミチユキは俺の頬に触れながら言う。


反則じゃないのか。


俺は言葉を忘れてしまったかのように、ただミチユキを見つめた。
ドキドキして、その音がミチユキに届いていないことを、祈った。






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