幸時・1
=チトセside=
「田辺、幸せだなって思う時ってどんな時なんやろう」
夜、ベットの中に入って、隣にいる田辺にそっと話しかける。
俺は、今日の朝、渡り廊下で、忘れたいことがあるんだと言ったユウキの切実な瞳が忘れられないんや。
「俺はね、今日、気がついたんやけど…」
「チトセ…」
「俺ね、消してほしいって何もないって言ったけど、そうじゃなくて、そうじゃなくて、ただ自分の感情が溢れていくことに耐えられなかっただけなんや」
ユウキへの想いが強くなりすぎて、怖かっただけ。
何もないって思っていたけど、何もないわけじゃなかった。
何もないわけじゃないと気がついて、今、不謹慎に幸せなんだと思った。
俺って本当に馬鹿だな。
「なんで、壊したくないのに、壊したいなんて思ったんやろう…」
ずっと一緒にいたいと思ったのに、このままじゃいやだとか我がまま。
俺はユウキにちゃんと好きだと言ってほしいんだ。
「チトセ、それはきっと恋だよ」
相手のことが好きなのに、我がままになってしまう病気だよって、田辺は乾いた笑いを浮かべて天井を見つめた。
「そう……」
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