期待・6
ハッとして瞬きを俺はくり返した。
だけど、目の前に広がっている風景は矛盾だらけだった。
「田辺、いつからここにいるんだ?」
俺は真っすぐに田辺のほうを見つめる。
すると田辺は「昨日から」とにったりと笑った。
渡り廊下の片隅で、時間が止まったかのように動いた。
チトセは「気がついて?」と不思議そうに俺を見ている。
ミチユキは「すごいな」と何かに感心しているように呟いて田辺の肩を抱いた。
田辺は「放せ」というとミチユキにパンチを繰り出した。
俺は一人取り残されているような気がした。
「簡単に説明すると、俺天使なんだ」
田辺は真剣な顔をして、そう言った。
そして、神さまがいて、その神さまが人の記憶を操作して田辺がチトセの兄弟だと思うようにしていると。
田辺がちゃんと生きてここにいたんだと改ざんしているのだと。
悲惨な話だ。
人の記憶がそんなにも簡単に動かされているなんて…
けれど、それなら、俺のこのチトセへの想いも、神さまにお願いしたら、なくしてくれるのだろうか。
なかったことにして、くれるだろうか…?
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