期待・5
彼女との付き合いがはじまってしばらくしてのこと、俺は彼女にキスが出来ない自分に後ろめたさを感じていた。
傍にいたチトセに思わず、キスはどうしたらできるのかと聞いてしまったくらい、だ。
「俺で練習したらいいじゃん」
にこやかにチトセは言った。
俺の理性が揺らいだ瞬間だった。
無邪気に俺を見つめるチトセの瞳の下の、唇に視線がいく。
ドキドキして…
それから、いつの間にか、俺はチトセに友達以上のスキンシップを求めるようになっていた。
中途半端に触れ合うなんて辛いだけなのに、それでも触れられるなら触れていたいと思った。
好きなんだ。
好きすぎるだけなんだ。
この想いは、一生、誰にも言えるものじゃないけど、
俺はチトセが好きだ。
俺の一番がチトセであるように、チトセの一番も俺であってほしい。
兄弟の田辺と仲がいいけど、チトセには、俺だけを見てほしい。
まじ、ただの兄弟に嫉妬しているなんてどうかしているのにな。
チトセと田辺は、俺とチトセよりも、ずっと一緒に…
一緒…?
俺、田辺と一緒にいた記憶がない。
一緒にいたはずなのに、一緒にいた記憶がない。
あれ?
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