正面・3
「それって、俺の話を聞いてくれるってことなん?」
「チトセが話したくないなら聞かないけど…?」
「…田辺は否定しないん?」
「それがチトセだって受けとめるくらいの気持ちはあるよ?」
「ぷつ」
「何がおかしいんだよ! 俺は真剣に!」
「ちゃう、ちゃうって、嬉しかったんやて!」
「……なんでそんなことて」
「だって、俺、誰かにそんな風にいってもらえたなんてないんやもん」
「ちょっとチトセ!」
さっきまでは俺がチトセのこと抱き抱えていたようなものなのに、今度はチトセが俺を思いっきり抱き締めた。
「痛いって」
「えー」
そんなに力こめてないよってチトセは笑った。
……本当だ。
言われてみれば、チトセは俺の身体に負担がかかるくらいの力なんてかけていない。
でも、確かに、胸の中でチクチクと何かが俺をさしている。
なんだろう。これ。
とても懐かしくて、でも、
追求してしまったら、
全て俺が壊してしまいそうで
怖くて、
俺は、それを気にしないことにした。
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