正面・1




「チトセーっ」


渡り廊下に出たころに後ろから田辺の声が響いた。

俺は焦った。

だって今、俺は変な顔になっているはずだから…


「田辺、今、ほっておいて」

そうつぶやくと俺は走り出した。


すると「無理無理」とか言いながらものすごいスピードで田辺は俺を追いかけてくる。

どないしよ。

きっと、俺、今泣いているに違いない。
そんなん田辺に見てほしくないんや…

いやあ、誰にも見せられへんけど…な。


「捕まえた!」

俺の右腕に飛びつくと田辺は俺の顔を覗きんだ。


「チトセ…」

「やから、追いかけるなって言ったんや…」

心配そうにしている田辺に俺はそう言った。
でも、田辺は首を横にふるふると振る。


「一緒に考えようよ…俺、チトセの笑顔…見たいから、協力するよ?」

「天使みたいやな」

「違う、そんなの関係なく、俺はチトセの力になりたいんだ」

「……田辺」


こらえていた涙なんて、軽々しく、流れ出した。






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