恋心・1
=田辺side=
俺は、限界を感じた。
よくもま、みんな真面目に椅子に座っていられるものだ。
俺なんて、50分の苦痛を二セットしただけで、くたばりそうだ。
「な、チトセ俺、早退してもいいかな?」
「え、なんでぇや、体調悪いん?」
「違う、ただ、もう、ここに座っていると、俺、駄目になりそう…」
「ほな、大丈夫やって、次は体育やで!」
……体育?
それはどんな授業だっただろうか…?
和幸の時、そんなに俺学校についていかなかったからな…。やったっけ、かな。
「ああ、田辺、体育っていうのは外で走りまわるんやで、俺はまじで勘弁してほしいけどな」
「走り回れる…! そんな、こんな椅子に固定されたような空間にパラダイスのような授業って言うのものがあるんだぁ」
わぁ、嬉しいな。もう、座っていなくていいんだ。
しかも、走り回れるなんて嬉しいな。
俺がそうやって一人喜びをかみしめていたら、ミチユキが「動くことしか能がないからな」とか言いやがった。
俺は心の中で、黙ってろ運動オンチと唱えて置いた。
でも、ミチユキにはそれは伝わらなかったみたいで、振り向くと、ニタニタと意地悪な笑顔を浮かべている。
あー。お前は家で寝ていたらいいのに…。
「おい、チトセ、田辺くん、急がないと遅れる」
ユウキが淡々と俺とチトセの肩をたたくと先に歩き出した。
それを何処か揺れる瞳でチトセは追っている。
ああ、また…やっかいな…幸せの道を歩まないといけないようなターゲットだ。
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