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食卓について、めずらしくテレビもつけないで、二人見つめ合いながらご飯を食べた。勝がなんとなく買ってきてくれているキャンドルの火がゆらゆらしていて、とても心和む。
いろいろあったなぁと昔のことを思い出すと、ちょっと涙腺にきた。
「一樹、泣きたい?」
「あ、いや、違うんだ。いろいろあったなぁなんてちょっと、思いだしてさ」
「ああ、俺もたまに思い出すよ」
切なげな声で勝は苦笑した。
「なんか、夢を見ているみたいだな…」
俺はふとそんなことを想った。
「勝とこうして幸せに暮らせるなんて不思議」
「一樹…」
「だって、俺ね、こんなにも、幸せな日がくるなんて思いもしなかった」
瞳を閉じたら思いだすよ。今でも、ずっと暗がりも音も駄目だけど、父に殴られたアザも何もかもが消えることなんてないけども、それでも…
「投げ出さなくてよかったなって思っている」
「一樹、投げ出さないでここまで歩んできてくれてありがとう。お疲れ様でした」
憂いを帯びた瞳で勝はグラスに見立てたコップを手にすると、俺の方に差し出した。俺は自分のマグカップを手にすると一樹の方に差し出した。
「二人の出会いに乾杯」
「ふっ勝、それ、ドラマでも寒いのに実際に言う…とかっ」
「笑うなよ、ときめくだろ?」
「あはは、はいはいときめいた」
「な、一樹ぃ。強がんなよ。本当はすっごく俺のことまた好きになっただろうに」
「はいはい」
「えー軽やかに流すなよー」
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