=中佐都side=


  ‐数年後‐


バイトを新聞配達に変えて、その伝手で俺は大学に奨学金で通っている。

正直眠たいし、いや、授業中とか眠ってしまうんだけど、同じ大学に進んだ俺の親友の小雪があとでばっちりと講義内容を教えてくれる。それに、本当は駄目なのかもしれないけど、録音機を買って、使っているから、手元にある教材と一緒に目が覚めている時に一人で復習もできる。小雪には、無償でお金を貸すよって言われていたけども、俺は自分の足で立って、頑張りたいと思っていたから、断りもした。楽をするばかりがいいことってわけでもないしな。



*****


「おかえり。一樹」

家に帰ると、わざわざ玄関まで勝は走ってきてくれる。あ、勝とは、高校の時からの付き合いにある菅野の下の名前。ある時、俺が小雪だけ下の名前で呼んでいるっておかしいって勝に言ってからというもの、俺たちは下の名前で呼び合うようになった。はじめはなんだか俺が不安がったからそうしてくれているんだと思っていたけども、ずっと呼ぶタイミングを考えていたんだと、勝は照れた顔をして言ってくれて…今でも勝が俺のことを一樹と呼ぶと思いだして、幸せな気持ちになる。

「ただいま、勝」

「うん」

「あのさ、ケーキ買ってきたんだけど…」

俺はそれとなくケーキを勝に差し出した。実は今日で俺たちが一緒に暮らし始めて1年になるんだ。けど、あくまでも記念のケーキなんて俺は言わない。もしも勝がこのことを忘れていたのなら、余計な気を使わせてしまうことになる。

「ありがとう。ちょうど食べたかったんだ。それに俺も今日はごちそう作っておいたんだ」

「ありがとう、とっても嬉しい」

「たまたま、気が向いたからだからな。もう、しばらくは生活きついんだから、いつも通りの食卓に戻るけどな!」

「わかってるって、俺だって今日はなんだか気が向いたからケーキ買ってきただけだし!」

そうして、どちらともなく笑った。
一言も記念日だねって言わなかったけども、俺たちは通じ合っているんだと心のどこかくすぐったかった。






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