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「蓮見先生、あのね、僕ずっと言おうと思っていたんだけど…」
学校からの帰り道、僕は隣を歩く先生に語りかけた。
「……無理しなくてもいいんだよ?」
「何が?」
「あの、最近、本をたくさん読んでいるから…」
僕は先生の家に増えたメンタル関連の本について、心配していた。
本当のことを言うと、僕のことを想って先生がそういった本を読んでくれるのは嬉しいことだけど…。
でも、やっぱり、先生は、優しいから、読むべきじゃないと僕は思う。
「難しく考えないで欲しいんだ」
たまに本から目をそらして、黙りこんで、じっと動かずにいる先生を思い出して、僕は言葉を紡ぐ。
もし、この言葉がうっとうしいものでも構わない。
僕は先生にこのことを伝えたいんだ。
「僕は、こうして、となりに先生がいてくれるだけで、幸せだから」
「でもさ、倉木。俺は全然わかってない」
「…そんな、こと気にしないで」
「気にするよ。俺は学びたい。きっと何処かに、幸福論みたいな答えがある気がしてならないんだ。たくさん本を読んでわかったことはちっともないけど、いつか、たどり着けるそんな気がしているんだ」
先生はとても真剣な顔をして、言った。
「そうしたら、俺は倉木のこともっとちゃんと幸せにしてあげられるんじゃないかって思ってそれで」
でもうまくいかないなって先生は作り笑いをした。
僕はだからもう一度言ってあげた。
「だから、僕はそばにいてくれたら、それだけでいいって」
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