12
「ふっ…」
屋上での出来事を思い出して僕は吹いた。
まあ、あの後、ちゃんと誤解は解けたんだけど、本当に見ていて面白かったな。菅野くん、一樹に必死すぎて。
「……何一人で、笑ってんだよ?」
夜ごはんをリビングに運びながら優香は僕に呆れた声を出す。
「ちょっとね、聞いてよ、優香」
「おお…」
「あのね、今日ねとってもいいことがあったんだ」
僕は一樹と菅野くんのことを話した。
一樹が想っているそれ以上に菅野くんが一樹のことちゃんと好きでいてくれたこと。二人が不器用なりに、手を取り合っていたこと。埋まることのないだろう不安感も、認め合って、笑っていたこと。
「それがね、嬉しかったんだ。とっても嬉しかった。馬鹿らしいよね。他人事なのにさ。でも、でも、ね、なんかこう、いいなぁって」
明日が楽しみになるよって僕は言った。
いつか僕も一樹や菅野くんみたいに、誰かと手を取り合いたいなって。
すっごく二人がきらきらしていて、それに恋焦がれたんだと、笑った。
「……小雪」
「なぁに?」
「よかったな」
そう言って、優香が笑ってくれた。とても優しい笑顔で…
どうしよう。途方にもなく嬉しい。
言葉が何処かに消えてしまった。
僕もただほほ笑んだ。
温かい何かが胸の中に溢れて、
それだけで満たされてしまったんだ。
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