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「小雪」
「え?」
放課後先に帰ったふりをして僕は屋上で一人考え事をしていた。
すると、菅野くんが嫌味な笑顔で現れた。
「なんだ、菅野くんかぁ。猫かぶりやめたら」
今日も教室の真ん中でさわやかに笑っていた菅野くんを思い出して僕は提案した。でも、知ってはいるつもりだよ。菅野くんが、演じることが嫌いじゃないってこと。結果はどうあれ、人に囲まれて嬉しいってこと。知っているつもりだから、余計に一樹の肩を持ちたくなる。
だって、一樹、ちょっと寂しそうにしているだろう。ま、そんなこと悔しいから言わないけど。
「それは小雪にそのまま返す」
お前こそ、その可愛らしいキャラをどうにかしたら、と菅野くんは言いながら、僕の隣に腰を下ろした。
さっきの休み時間、僕のセリフに顔真っ赤にしていたの、どこのどいつだよ、本当に。おかしいな。
「でも、菅野くんはこんな僕がツボに入っていると思うんだけどな。転校してきた日からずっと僕には優しいじゃん。本気で、一瞬迂闊にも、誤解してしまったくらいさ。僕の一挙一動に赤面したりしていたじゃない?」
「古傷を、掘り返すな」
「いたっデコピンするなんて男のすることじゃないよぉ」
「ぶりっ子もやめろ」
「えー」
「……な、俺が、小雪に優しかったの、中佐都の、大切なものだからってことだったんだ。はじめは。でも、今は本気で可愛いし、俺の大切なお友達だと思っているよ」
「はい?」
僕はこの完全に猫かぶりな何処が可愛いと言えるのかと心底、理解に苦しむ。菅野くんってやっぱり謎だ。
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