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「小雪」
朝、教室に入ろうとしたら、後ろから腕を掴まれた。
そこには心配そうな顔をした一樹がいた。
「……ちょっと、時間あるかな?」
目線を泳がせながら、一樹は僕に尋ねる。
どうしよう…すごく、それが嬉しかった。
でもね、
「一樹、もうすぐ、朝のホームルームだよ?」
後一分もしないうちに、先生がここには来るだろう。
「小雪はサボるの、嫌?」
「…っ」
捨てられた犬みたいに、一樹は僕を見つめる。
そんなこと言われたら、僕は断れないじゃんかっ!
「一樹がいいなら、僕は全然サボるよ?」
「ああ、じゃあ、行こう」
勢いよく一樹は僕の手をとって走りだした。
廊下から見える教室の窓には菅野くんが映っていた。
どうやら向こうからも僕が見えるんだろうな…
菅野くんはにこやかに僕に手を振っている。
僕は悔しいから無視をした。
ただ、今は、ここに一樹の温もりがあればいいなんて思う。
もうどうでもいいかな。
もう細かいことはいいかな。
今、一樹が僕の手を引いてくれているってそれだけで
とっても嬉しい。
必要としてくれているのかなって。
こんな僕なのに…
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