10
「…ぅん、あ」
僕の唇から、優香の唇が離れて、僕は必死に酸素を吸った。
「小雪」
「?」
名前を呼ばれて僕は優香の方を向いた。
まだ、上手く息が出来ない。
「俺にとっての小雪ってなんだと思う?」
「は?」
「だから、俺にとっての小雪ってなんだと思う?」
「そんな、わからないから、聞いたんだ…」
「そっか。じゃあ、答えてあげる。俺にとっての小雪は家族だよ」
「…ぇ?」
「嘘じゃない。俺は嘘が嫌いだからな」
優香はそういいながら、僕の頬に指を這わせた。
「…やだな。怯えないでよ。冗談はこの辺にして、ご飯持ってくるね」
「優香…」
「俺、その名前嫌いなんだ…あまり連呼しないで」
「ごめん…」
「でも、小雪に呼ばれるの、嫌いじゃないから、まあ、いいよ」
そう言って優香はキッチンに消えた。
食器運びくらいしようかと考える余裕もなく、僕は一人、優香が触れた自分の唇に手をあてた。
どうして、優香は、あんなことをしたのだろう。
「……っ」
思いだしたら恥ずかしくて、僕は何回も首を振った。
忘れられるって、ごまかせるって思っていたんだ。
最低だな、僕は。
[*前] | [次#]
目次に戻る→