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家について、僕はリビングの椅子の上で丸くなっていた。
料理はまるでできないから、優香の邪魔にならないように、おとなしく、座っている。
今日は久しぶりに、スーパーに行ったけども、何も楽しいことはなかった。
辛いだけ。行き交う人の何かが見え隠れしていて、僕はとても怖かった。
優香の後姿も何処か寂しくて、怖かった。
あ〜
どうして優香はたった少しの値引きにこだわるんだろう。
自己満足だとか言っていたけども、自己満足にそこまで人生を捧げているようになるものだろうか。
ま、今まで何も言わなかった僕も僕だけど。
「……ねぇ、優香」
呼びかけても返事はなかった。
きっと、今炒め物をしているから、僕の声は聞こえていないんだろうな。
「優香にとっての、僕って何かな…?」
きっと、僕は優香にとって、財布だと思う。
むしろ、僕は財布についている付属品といったところかもしれない。
そこまで自分の中に答えはあるのに、僕は疑問形にしてつぶやいた。
本当は認めたくなかっただけ。
だって、そんなの寂しすぎる。
「……残酷な質問だな」
「え?」
急に僕の後ろから声が聞こえて振り向いたら、そこには優香がいた。
優香…と
僕が名前を呼ぶよりも早く、
優香は僕の口を塞いだ。
僕は驚いて身動きが取れなかった。
それが、僕のファーストキスだった。
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