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意外だ。優香なら、そんなくだらないこととか言い捨てそうなのに。
「じゃあ、とりあえず、笑って、楽しそうにすること」
僕は自分の部屋に優香を上げると、猫かぶりレッスンをした。
というか、これくらいいちいち教わらなくてもできそうなのにな。
優香は可愛いし、僕よりも女の子みたいで文句なくスタイルもいいし、モテるはずなんだけどって、それじゃあ、ダメなのか。
そんなの見た目だけだしって、言っても、猫かぶり好かれてもそんなの嘘じゃないか。
あれ、優香はじゃあ、なんでこんなこと必死に僕に教わっているんだろう。
「小雪、笑うのが大切なのってどうしてだ?」
「あ、それはね、自分がその人に対して好意があるって相手に伝えるためだよ?」
「は?」
なんだよそって、優香は言い捨てた。
「あはは、確かに僕もそう思うこともあるけどね、自分に好意を寄せてくれていると思ったら、人はその人のこと案外大切にするよ。だって、みんな結局自分が好きだからね」
「あーそれはなるほど、納得した」
学年トップの僕の一つ年下の弟は「人間のエゴを逆手にとる」とか呟きながらノートにメモを取っていた。
「優香、優香は頭いいのに、覚えられないの?」
「ああ、答えがあやふやなもんは俺苦手なんだ」
「そうなの…?」
「だって、わからないじゃん。答えが定まらないものってさ。特に俺、小雪のこと本当はわかってないかな」
「僕のこと…?」
「そう、なんか、つかめない感じがする」
「つかもうと、してくれ、たの?」
「ああ、けどって」
淡々と会話が弾んだと思ったら、急に優香は顔を真っ赤にして、聞き取れない悲鳴を上げ
僕の部屋からそそくさと逃げていった。
「どうしたんだろう」
僕も優香のことちっともわからない。
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