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たとえば、昔のことを思い出したとしても、
俺は、きっともう悲しまないだろう。
「菅野、俺は菅野に会えてよかったと思う」
俺は別れ際、菅野の耳にそっと囁いた。
すると菅野は少し固まって、急に俺のこと抱きしめた。
あまりにも強く抱きしめられて、ちょっと痛い。
だけど、いつもより、菅野が近くに感じる。
それは幸せなこと。
「中佐都、俺こそ、中佐都に会えてよかった。中佐都に会えていろいろ俺はまた変われた」
そのことについてはまたゆっくりと話そうと菅野は言った。
別に今からだって時間があるんだから、今から話したらいいのにって俺は思った。
いつだって別れ際に話が始まって延長したりしているじゃないか。
「菅野、今からでも俺は時間あるけど」
話なら今からちゃんと聞けるんだと俺は言おうとしたら、菅野は「うん、それはわかっていた」と急にたどたどしい声で言う。
「?」
俺は菅野のちょっと変わった態度にどうしたんだろうって疑問を抱いた。
でも、さ、菅野の腕の中、温かいから、もう少しこのままでなんて思ってしまう。
もう、ここが菅野の家の前でいつ誰かが通りかもしれないとか考えられない。
ただ、ここには菅野と俺がいるんだってそんなことしか、分からない。
「中佐都、俺、もっと中佐都のこと知りたい」
「え、うん、いいよ?」
その話は夕方には解決したんじゃないのかなって俺は疑問に思いながら頷いたら、そのまま思いっきり、菅野は俺の手をつかむと自宅に入れてくれた。
そして、菅野の部屋で、俺たちは、はじめて一つになった。
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