=神崎side=


病院の窓から二人が帰るのを見送ると、私はカーテンを閉めた。

「先生、さっきの誰?」

「え?」

いきなり話しかけられて、私の身体は跳ね上がった。

別に何もやましいことなんてないんだけど、変な感じだ。

振り返ると、声の主はやっぱり彼で、私はほほ笑んだ。


「昔の、患者さんっていうか、ここに来ていた人かな?」

「かなって、なんでそんなにも、疑問形なの?」

「うーとね、正確には、そのころの私は、カウンセラーじゃなかったんだ。まだまだ憧れの玉子でね、でも、ちょっとした縁で菅野くんっていうんだけど、彼のカウンセラーをしていたんだ。ちょうど、そこの部屋かな」

私はそう言って、彼――――守くんの後ろのちょっと汚い扉を指差した。

「…でも、先生が先生になったのって、俺が、ここに来る少し前だって聞いてたけど?」

「ああ、当時の私は清掃員だよ」

「え、それって」

「勝手にやってたの。ここの病院束ねている人と、菅野くんのお母さんが知り合いでね」

「いや、話が、俺にはわからない…」

「簡単に言うと、菅野母がここの偉い人にうちの子を助けてって言って、でも、そんな今は人不足なのにどうしたもんか…ああ、そういえば、ここの清掃員はまだ勉強中だと言っていたが、素人よりはカウンセラーできるんじゃね、よぉし、そういうことで話をおさめよう」

「…大人って、俺、嫌いだ」

「うん…私もたまに、心が痛むよ…」

「違う、先生は悪くないよ、だってあの人、幸せそうだったから」

元気出してよって、守くんはたどたどしい声で言ってくれた。






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