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それは本当に優しいのに、何処か残酷な話だった。
『一樹はね、信じることが怖いんだよ。でも信じられない自分が嫌いなんだ。堂々巡りをよくしているよ。あとね、帰ってくる言葉が決まっていないから、どうしたらいいのか、わからなくて、でも答えないと、なんてずっと考えてしまう。ついて、いけないんだ。人の感情が激しくて、次々と変わって行くことにね』
『まだ、そんなことを考えているのとか、もう、それは終わったことだろうって言われたりとか、よくあったな。ちょっと重いんだって、一樹、の優しさは。人はね、案外、みんな自分の汚さを知っているから、一樹みたいに本当に純粋にしている子なんて近くにいたら、苦しくなる。だんだん、離れていくんだよ。ありえないくらい、なつくだけなついて、さ』
『一樹は考えない人になったよ。気にしていたんだと思う。自分は考えすぎるって、考えても仕方ないのにって。それに、一樹のお父さん、小さいころからずっと、一樹がそこにいても平気で女を抱くんだ。いろいろあって、両親は離婚して、それでも、一樹、家のこと、守ろうとして、バイトして、家事をして』
『何回も僕は一樹のお父さん殺したろうかと考えたけどね、そんなこと一樹は望んでいないんだ。ただ変わらずに隣にいてほしいとか、笑ってほしいとか、自分はそんなのに、人の心配ばっかして、馬鹿で』
『だから、僕は決めているんだ』
『こっそりと一樹のこと守りたいって。一樹のためになりたいって。菅野くん、お願いだから、嫉妬しないでね? 一樹は、今、人に囲まれて怯えているだけだから、誤解して、嫉妬しないであげてね。何かあったら、話を聞いてあげてね』
『え? 僕? ああ、僕じゃ、ダメだから……あ、しんみりしちゃったかな。よぉし、僕、クラスに戻ってみんなの邪魔してこよっと』
それは、本当に、残酷なのに、何処か、優しい話だった。
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