８
「…ぅ、菅野ぉ」
「うわ！」
中佐都の唇から自分の唇を外すと、思いっきり抱きつかれた。
「……中佐都？」
「泣いていないから」
「いや、そうか」
明らかに、震えていて、明らかに、バレバレな嘘を君は吐く。
でも俺はそれも中佐都なんだとそっと抱きしめた。
「菅野、俺も好きだ…」
「泣いているのに？」
「な、泣いてない」
俺は泣いていないぞと中佐都は言う。
「ただ、涙が出るだけで、泣いてなんか、いない」
「え？」
「泣いて、ない、から…」
「そうか…？」
「そうだ」
「うん、そうだな」
そういうことにしておこう。
きっと、君が泣いていないと言うのなら、君は泣いていない。
「だって、菅野、俺、嬉しいのに、泣くわけがない」
これはうれし涙だから泣いていることにはならないと中佐都は口にした。
俺は、もう、それがつぼに入った。
中佐都って、天然さん？
[＊前] | [次＃]
目次に戻る→