第五話
俺の手に、菅野の手。
放課後の保健室で、俺は菅野に、ありがとうと伝えた。
菅野は「意味がわからねぇ」とかブツブツ言っているけど、それでもいいんだと思った。
「中佐都…何、本当は今も寝ぼけてるんだろ?」
「は?」
「さっきだって、俺の名前呼んで引きとめたみたいに、無意識じゃないの?」
「え、おおお、俺、そんな、迷惑なこと、したのか!?」
全く、記憶にない。
廊下で辛くなって、また意識を失ったのはわかった。
でもなんで、俺、そこで、菅野に迷惑かけているんだろう。
菅野は優しいからきっと困っただろう。
それでもほっとけなくて俺のそばにいてくれたのか?
だったら、ちょっとさびしい。
「ごめん、菅野…」
「わ、そんな、別に、そんな、んじゃなくて」
「?」
「俺は、嬉しかったから…その」
「え?」
「だから、嬉しかったって言ったんだ。そばにいたいけど、俺じゃダメかなって思ってたら、中佐都、俺の名前、呼ぶし…」
「そんな、俺、記憶にないしっ」
急に恥ずかしくなってきて、俺はわたわたと両手を振った。
俺の意思じゃないとまで言いかけてやめた。
本当は菅野に俺のそばにいてほしかったんだ。
だから、嘘じゃない。
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