8
「え?」
俺は突然に冷たい言葉に、返事ができなかった。
「だから、くーちゃんは勝のことなんてどうでもいいのよ。なんとも思っていないのよ」
わかるでしょ、と母は言った。俺はその母の表情がとても怖かった。
「どうして…?」
「どうしてって、どう考えてもそうでしょ?」
「そうなの?」
「ええ」
そうなのか…と俺はこの時、納得した。
母がこんなにも真剣に言うんだから、そうなんだろうと。
でも、そんなこと信じたくなかった。
俺は誰かを恨んだりしたくなった。
きっと誰も悪くなくて、今回の貯金箱事件も運が悪かったんだろうと、思っていた。
思っていたかった。
でも、一度感じた亀裂のせいか、俺はくーちゃんのこと、否定的に見てしまうことがあった。
埋まらない何かがそこにあることに気がついた。
それがなんなのか、幼い俺には理解できなかったけど、後になって気がついた。
俺は大切な貯金箱を壊されて、傷ついていたんだ。
ただそれだけだった。
ただ癒えないだけだった。
[*前] | [次#]
目次に戻る→