20
中庭にある水道で腕を洗ってから、僕は先生に右手を出した。
すると先生は僕の手首から腕にかけて、本当に悲しそうな目をして見つめる。
「先生、僕は、別にこんな傷、どっちでもいい」
知っていても知らなくても。
上辺だけの傷だから。
だって、これを見たからってその人に僕の何がわかるっていうの。
「蓮見先生が、僕のこと、まだ好きでいてくれたら、それでいい」
他に望むものなんて何もない気がした。
ただ、こんなの見て、先生が幻滅しなければいいのに…
「…倉木」
「何?」
「俺、倉木のためにできることある?」
「…好きで、いて、ほしい、な…」
「……倉木、俺、人の愛し方、わからないけど、それでもいい?」
倉木のことは好きだけど、大切にしているつもりだけど、上手く出来てない俺だけど、
そう言って先生は俯いた。
僕はそんな先生の頬に両手を伸ばすと、キスをした。
「僕、口下手だから…上手いこと言葉じゃいえないけど」
これが僕の答えだと口にして、僕は先生に微笑みかけた。
「僕なんかのことで落ち込まないで…」
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