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あの日は怖くて、僕は菅野くんから逃げた。
だけど、菅野くんは僕のことが好きなのかな。
だったら、一樹を取られるくらいなら…
「小雪?」
「何?」
「あ、なんでもない」
一樹は切なさそうな顔をして、俯いた。
僕は決して一樹にそんな思いをさせたくないのに…
どうして、こんなことに…?
ああ、強さがほしい。
一樹を守れるくらいの何かが。
……あるか、一つ。
男の子には残念ながら、モテるし。
まぁ一樹じゃないと意味がないんだけど。
菅野くんに迫ってみるか…
そうしたら、一樹だって、菅野くんのこと、諦めがつくだろうし。
やるなら、今だ。
今なら、まだ、初期状態だし、諦めなんてつくはずだ。
手遅れになる前に手を打たないと。
「小雪?」
「何?」
「怒ってる?」
消え入りそうな声で一樹は僕を見下ろした。
「何も怒ってないよー。ちょっと、考え事!」
心配性だなって、言いながら僕は一樹の背中に触れた。
もし、僕の身長が一樹よりも高かったら、
もし、僕の手が一樹よりも大きかったら、
もし、僕がこんな女顔じゃなかったら、
一樹は僕のこと、
菅野くんのように好きになってくれたのかな?
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