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いつだって、どんな些細なことだって、覚えていてくれた。
それに、心配してくれるのは自分に非があると思っているからだ。
だから、先生はあのことを全部なかったことにはしないだろう。
そういえば、僕に、なかったことにしないでほしいって言っていたっけ。
そっか、先生もあの時、こういう気持ちだったんだ。
辛いよね。
ないがしろに、忘れられてしまうのは…
誰だって、寂しいよ。
わかっていても、心はいつも理解してくれないから。
「先生、も、忘れないで…」
「え?」
「ううん。なんでもない」
「ちょっとなんでもないとか言われても気になって仕方ないんだけど」
言えよ、と言いながら先生は必死に僕の肩をゆすった。
おかしくてたまらない。
嬉しくて、幸せで…
僕はずっと首を振って、静かに笑っていた。
だって、聞こえていたよね、蓮見先生。
僕がそう言った時、泣き出しそうな顔したくせに。
二度と言うもんか。
とぼけてもう一回言わせようとするなんて反則だ。
馬鹿。
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