14
「悪かったな…つい、その」
「いいです、もう」
なかったことにしようと言いかけて、僕はやめた。
先生はなかったことにしてほしくないと、あの時言っていた。
「僕は、大丈夫」
精いっぱい笑ったつもり。
だって、怖かったけど、いやじゃなかったんだ。
少なくても、先生があの時は僕のことだけを見てくれているって思えた。
だから、心のどこかでは嬉しかった。
「今、何時?」
「九時」
「…あ」
家に帰らないと、と、思ったけど、今さら帰ったところで…
「倉木、よかったら泊っていってもいいぞ?」
「え、でもそんな」
確かに家に帰るのはめんどくさい。
だけど、泊るとかそんな…
「実は、倉木のズボンとか、今、洗濯していて…」
「…っ」
全く気がつかなかった。
今、僕がはいているズボンは、僕のじゃない。
ということは…
「俺のだから、それ、ちょっとぶかぶかだし、それで家に帰るのはきついかなって」
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