「黙ってたら、わからないから」

保健室のドアを開けて突っ立っていると、蓮見先生がそう言って僕を招きいれてくれた。

「な、倉木よ。お前、単位とか大丈夫なわけ?」

蓮見先生はさりげなく心配してくれているみたいで、サボり生徒である僕を見つめた。

いちお、頷いておこう。
たぶん留年とかの心配はないし。

「なら、いいけどさ。ま、一人でヒマしてたわけだから、おサボり仲間がきて俺としてはちょー嬉しんだが…」

…先生がそんなこと言っていいわけ?

「倉木。今は自習させてんから大丈夫だよ」

心配すんな、と蓮見先生は笑った。

「ああ、そう。俺がいちゃ、いい作品も描けないだろうし」

蓮見先生は美術の先生。
いちおね。

あ、そういえば、美術部の顧問もやってた。
普段、あまり部活には、顔出さないけど。

「生徒たちの自主性を見るいい機会って、何その顔は。倉木。せっかく綺麗な顔してんだから、へんに歪めんなよ。もったいない」

見なくて、完成した作品しか見なくて、わかるの?

努力は?

そこに辿りつくまでに、かかった努力は?

結局、蓮見先生も…

同じなんだ。

帰ろう。
ここに、僕の居場所なんてないんだ。

「…倉木?」

え?

保健室から出ていこうとした僕の手が引っ張られた。
そのまま、蓮見先生の腕のなかへ、落ちた。

「……」

「な、どうした?」

なんで??

なんで蓮見先生、普通に話してくんの?
僕が気にし過ぎなの?

いや、でも、さ、
普通、生徒、抱き抱えて放さずにいる?
事故だとしても、放すよね?

ね?

「倉木、どうして逃げるの?」

淋しいよ、なんて、蓮見先生はさらに僕を抱きしめた。

なんで?

どうして?

「ね…」

嫌だ。耳元で喋るな。

僕は何とか蓮見先生の腕からの脱出を試みた。

だけど、びくともしない。

「倉木。答えてよ」

「…っ」

息が、耳を、くすぐった。

温かくて、変な感じ。

「……先生」

「うん?」

「や、やめて…」

「どうして?」

耳に触れている唇が、僕を追い詰めていく。

「……ふぁっ!」

なんで?

なんで??





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