7
ずっと人づきあいが苦手だった。
俺は知っていたんだ。
信じたら裏切られるって。
知っていたんだ。
だから、
いつも、人とは壁をつくっていた。
怖かったんだ。
関わることが…
でも、
だけど、
それでも、
俺は…
「あれ、中佐都くん。まだ残っているの?」
「え…?」
それはまだ、小学三年の時の放課後。
教科書ばかりと一緒にいた俺に、小雪がはじめてかけた言葉だった。
「あ、うん」
俺は頷いた。
「そうなんだ。僕ね、傘忘れちゃったみたいで、とりに来たんだ」
そう言って、小雪は傘立ての中から、傘をとった。
「晴れていたりしたら、持って帰るの忘れちゃうことってあるよね?」
「あ、うん、そうだな」
にっかと笑う小雪に俺はどんな顔をしていいのかわからなかった。
だいたい、小雪はこの時、まだ、転校してきて、日が浅いし、俺なんかの名前を知っているってことが不思議なくらいで、なのに、どうしてこんなにも話かけてくるのだろうかと考えた。
「…ごめんね。迷惑だった?」
「え?」
俺は急に静かな声で体を小さくして、俺の方を見つめる小雪に、首をかしげた。
「一度ね、話してみたかったんだ。でも、なんか、邪魔しちゃったかな? 気に障ること言ったかな?」
「ちが、そうじゃない」
俺は教科書から顔をあげた。
今にも泣き出しそうな、小雪がそこにいた。
「そうじゃないんだ」
俺は首をふった。
何がそうじゃないのかはわからなかった。
でも、小雪に話しかけられたことは、嬉しかった。
そんなことは口にできもしないが。
あの時、俺は。
「よかった」
そう言って、にっこりと笑う君に惹かれた。
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