ずっと人づきあいが苦手だった。
俺は知っていたんだ。

信じたら裏切られるって。
知っていたんだ。

だから、
いつも、人とは壁をつくっていた。

怖かったんだ。

関わることが…

でも、
だけど、
それでも、

俺は…



「あれ、中佐都くん。まだ残っているの?」

「え…?」

それはまだ、小学三年の時の放課後。
教科書ばかりと一緒にいた俺に、小雪がはじめてかけた言葉だった。


「あ、うん」

俺は頷いた。

「そうなんだ。僕ね、傘忘れちゃったみたいで、とりに来たんだ」

そう言って、小雪は傘立ての中から、傘をとった。

「晴れていたりしたら、持って帰るの忘れちゃうことってあるよね?」

「あ、うん、そうだな」

にっかと笑う小雪に俺はどんな顔をしていいのかわからなかった。
だいたい、小雪はこの時、まだ、転校してきて、日が浅いし、俺なんかの名前を知っているってことが不思議なくらいで、なのに、どうしてこんなにも話かけてくるのだろうかと考えた。

「…ごめんね。迷惑だった?」

「え?」

俺は急に静かな声で体を小さくして、俺の方を見つめる小雪に、首をかしげた。

「一度ね、話してみたかったんだ。でも、なんか、邪魔しちゃったかな? 気に障ること言ったかな?」

「ちが、そうじゃない」

俺は教科書から顔をあげた。
今にも泣き出しそうな、小雪がそこにいた。

「そうじゃないんだ」

俺は首をふった。
何がそうじゃないのかはわからなかった。
でも、小雪に話しかけられたことは、嬉しかった。
そんなことは口にできもしないが。

あの時、俺は。

「よかった」

そう言って、にっこりと笑う君に惹かれた。





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