「倉木、あの時、どうして追いかけてきたの?」


俺は、保健室で、俺に背中を見せた君を前にして、思い出した。

とっさに抱きしめて、しまった。

離れて行かれると、追いかけたくなる、俺の悪い癖だ。

昔から本当に治らない、癖。


「あの時、どうして、俺を追いかけてきてくれたの?」

俺が君から逃げだしたあの日。

君は俺のことを追いかけてきてくれた。

嬉しかった。


「ね?」

俺は倉木の耳元で、触れあうくらいの距離で、囁く。
倉木は俺から、のがれようと、腰をひねる。

それでも、俺はへこたれない。


今、嬉しくて、温かくて、俺は倉木の華奢な肩を抱いた。


ああ、俺の中で、音がした。

何かが、やはり、壊れる音。

だけど俺はこの時感じた。

確かに、恋に落ちている。

今も聞こえる。

聞いていたいと思う。

生きている証になる音。

俺は、倉木の耳に舌を這わせた。


「ん」

倉木は何かに耐えるように、震えた。

それが、どうしてなのか、嬉しかった。






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