6
「倉木、あの時、どうして追いかけてきたの?」
俺は、保健室で、俺に背中を見せた君を前にして、思い出した。
とっさに抱きしめて、しまった。
離れて行かれると、追いかけたくなる、俺の悪い癖だ。
昔から本当に治らない、癖。
「あの時、どうして、俺を追いかけてきてくれたの?」
俺が君から逃げだしたあの日。
君は俺のことを追いかけてきてくれた。
嬉しかった。
「ね?」
俺は倉木の耳元で、触れあうくらいの距離で、囁く。
倉木は俺から、のがれようと、腰をひねる。
それでも、俺はへこたれない。
今、嬉しくて、温かくて、俺は倉木の華奢な肩を抱いた。
ああ、俺の中で、音がした。
何かが、やはり、壊れる音。
だけど俺はこの時感じた。
確かに、恋に落ちている。
今も聞こえる。
聞いていたいと思う。
生きている証になる音。
俺は、倉木の耳に舌を這わせた。
「ん」
倉木は何かに耐えるように、震えた。
それが、どうしてなのか、嬉しかった。
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