下校途中の生徒とすれ違いながら、俺は保健室に逃げ込んだ。

倉木の、今にも壊れてしまいそうな、儚い声と瞳が、胸の中に残っている。


俺は首を振った。


違うんだ。
ダメなんだ。
間違っている。


「こんなの…っ」

全力疾走してきたからか、俺は浅く大きく、息を継ぐ。

午後の光は温かく綺麗に、揺れるカーテンのあいだから降り注ぎ、俺を照らした。

似合わない。

どうして、俺はこんなにも、ちぐはぐな人生を送っているのだろう。

倉木の儚さを見た瞬間、俺はわかってしまった。

同類だって。
わかった。

だから怖いんだ。
求めてしまいそうだ。

同意を求めて、期待して、勝手に恨んでしまいそうだった。

倉木も俺の方を振り返った時、小さく「あ!」と言っていた。

倉木も気がついたんだ。


「……理解なんて、いらないのにな」


俺は一人でいい。
一人だとはじめから思っていたら、手をのばすこともない。

落胆することもない。
それでいいんだ。

でも、俺のことを追いかけてきてくれた君がいた。


保健室の扉を遠慮がちに開けて、倉木はそこに立っていた。

「倉木?」

俺はどうしてここに来たのかと聞きたかった。

だけど、何も言わない倉木に、俺は言葉が紡げなかった。

それでも、俺は倉木の元へ歩いていた。

倉木も、俺に拒否されていないと思ったんだろう。


徐々にこっちへと歩いてきてくれた。


「…………」


俺たちは何も言わずに、ただ、そこにいた。






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