5
下校途中の生徒とすれ違いながら、俺は保健室に逃げ込んだ。
倉木の、今にも壊れてしまいそうな、儚い声と瞳が、胸の中に残っている。
俺は首を振った。
違うんだ。
ダメなんだ。
間違っている。
「こんなの…っ」
全力疾走してきたからか、俺は浅く大きく、息を継ぐ。
午後の光は温かく綺麗に、揺れるカーテンのあいだから降り注ぎ、俺を照らした。
似合わない。
どうして、俺はこんなにも、ちぐはぐな人生を送っているのだろう。
倉木の儚さを見た瞬間、俺はわかってしまった。
同類だって。
わかった。
だから怖いんだ。
求めてしまいそうだ。
同意を求めて、期待して、勝手に恨んでしまいそうだった。
倉木も俺の方を振り返った時、小さく「あ!」と言っていた。
倉木も気がついたんだ。
「……理解なんて、いらないのにな」
俺は一人でいい。
一人だとはじめから思っていたら、手をのばすこともない。
落胆することもない。
それでいいんだ。
でも、俺のことを追いかけてきてくれた君がいた。
保健室の扉を遠慮がちに開けて、倉木はそこに立っていた。
「倉木?」
俺はどうしてここに来たのかと聞きたかった。
だけど、何も言わない倉木に、俺は言葉が紡げなかった。
それでも、俺は倉木の元へ歩いていた。
倉木も、俺に拒否されていないと思ったんだろう。
徐々にこっちへと歩いてきてくれた。
「…………」
俺たちは何も言わずに、ただ、そこにいた。
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