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すると、
「香月くん!」
「え?」
俺はどこか聞き覚えのある声がした方に視線を送る。
そこには佐田先生がいた。
その肩には、よれよれになったナオキがいた。
俺はナオキのもとに駆け寄った。
「どうしたんだ?」
「どううもしないよ」
ナオキは青い顔をして、そう言った。
だけど、俺は納得できなかった。
「どうもしないわけないだろ?」
「兄さんっ」
ナオキは俺の方を見つめると、ふらふらした体でだきついてきた。
「わ…っ」
「俺、兄さんに、謝らないと」
「何を?」
「だって、誘拐されて…え、あれ?」
ナオキはそう言って、疑問符を浮かべる。
俺はようやく、杉田、ナオキ、そして佐田先生がこうしてそろっていること、普段と雰囲気が違うことに気がついた。
そう、みんな、知っているんだ。
じゃあ、説明した方がいいのかな。
俺はミコトさんの方を振り向いた。
すると、ミコトさんは「言っておけ」と苦い顔をした。
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