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=杉田side=
手がかりも何もない。
俺たち三人はただ雪の中、沈黙していた。
すると、俺の携帯のバイブが……
いや、さっきそこで拾った土屋の携帯が震えていた。
知らない電話番号からだった。
俺は土屋のプライバシーだと思って無視をしようとしたが、どうしてだろうか。
俺はその電話が土屋からだと思ったんだ。
「はい」
俺は、通話ボタンを押すと電話に出た。
「あ、杉田?」
土屋の声がした。
「土屋!?」
俺は叫んだ。
「無事なのか、今どこにいるんだ。大丈夫か、怪我は? 何もされていない?」
「大丈夫、大丈夫」
「そっか、よかった…」
……どうして、土屋は自分の携帯に電話なんて掛けているのだろう。
俺やナオキじゃなくて自分の携帯に。
「な、土屋、お前、どうして自分の携帯に電話かけてんの?」
素朴な疑問を俺は聞いてしまった。
連れ去られたとか、そんなことよりも、とっさに脳裏に浮かんで消えなくなってしまった疑問。
すると、土屋は、簡単に答えた。
「携帯、おとして、どこにあるのかなって、思って、バイブ鳴らしたら、わかるかなって思ったんだけど」
「…ぇ」
「いや、だから、携帯なくしちゃってさ、見つからなくて。ついさっき知り合った人に携帯借りて、かけてみたんだけど、杉田に繋がって。あああ、杉田、俺の携帯、持っててくれているんだ!」
よかった。と、土屋はそう言った。
今度は俺の中で別の感情が湧いてきた。
「どうして、そんなにも普通なんだよ!?」
俺は心配で仕方無かった。
土屋が無事なのは嬉しいことだけど、まるで何もなかったかのようにされると落ち込んでしまう。
俺ってそんなものなのか。
土屋にとって。
俺って…
「貸せ!」
「うあわ!?」
急にナオキに横から、携帯を取られて、俺はびっくりした。
「兄さん。俺。そうそう、ナオキ。今、携帯落とした所らへんにいるんだね。わかった、そこら辺に居て。今から、行くから。うん。そう。うんうん、大丈夫。じゃあ」
ナオキは携帯を切ると、俺の方を見た。
そして「馬鹿」と呟いた。
「気持ちはわかるけど、さきに無事な兄さんに会ってから、事情を問い詰めて、よ。怒るならそこからだ。電話越しじゃ、いつ、どうなるかわかったもんじゃないだろ」
「わりぃ、つい」
「いや、いいんだ。行こう」
案内は杉田に頼むから、とナオキは言った。
俺は何を偉そうにと思いながら、土屋が誘拐された場所へと向かった。
佐田さんはその間、何も話さなかった。
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