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=ミコトside=
誘拐なんて本当はしたくなかった。
だけど、俺は、能天気にふるまっている健志郎のためになってやりたかった。
俺はずっと健志郎のお兄さん的存在だったんだ。
それは今も変わらないことで。
「落ち着いた?」
俺は香月が泣き出してしまったのをなだめ終わるとリビングから出る。そこには健志郎がさっきとはまた違った暗い顔をして立っていた。
「ミコちゃん、は、すごいよ、俺にはできない」
「は?」
「慰め上手ってこと」
「別に、慰めてなんかいない」
そう、何か気のきいたことを言えたわけじゃない。ただ、隣にいて、背中をさすっていた。
香月はしきりに何か言いたそうにしていたけど、嗚咽で上手く話せないみたいで。
だけど、どうしてだろうか。
俺にはこう聞こえたんだ。
「あいつ、何もできなくてごめんなさいって言ってた」
「?」
「ずっと思ってたんだが、香月は健志郎に似ているな」
「俺は、あんなにも儚げ?」
「いや、健志郎は危うい」
「危ういって?」
「そのままの意味だ」
「……ふーん」
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