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=土屋side=
正直、居心地は悪くない。
誘拐されたのに、怖くないし、一人で家にいるよりはこうして誰かと居た方が淋しくもないし、ミコトさんもケンシロウさんもどこか親近感沸くし。
俺は、通されたリビングでまったりとみかんを食べていた。
このみかんはケンシロウさんの実家でとれたみかんらしい。
しきりに、ケンシロウさんが「おいしいか?」と聞いてくるので、俺は正直に「おいしいです」と答えた。
すると、ミコトさんがつまらないものでも見るような顔をして、テレビのチャンネルをまわした。
「あ!」
そう叫んで、ミコトさんはチャンネルを止めた。
「え?」
俺とケンシロウさんはみかんよりもそっちに興味を移す。
そう、テレビにうつったニュース番組では、見覚えのある風景が映っていた。
そう、テレビは言った。
この辺で、誘拐未遂事件が続いているのだと。
俺はじっと、二人の方を見た。
二人は格好悪く笑うと、そうだよ、と頷く。
「だって、手荒なまねはしたくないって思ってたんだ」
「そう、はじめは相手の了承とろうとしたんだぜ、ケンシロウは」
「ちょ、ミコちゃん、それは言わない約束」
「そんな約束したっけかな」
「してないけど、ミコちゃんの意地悪!」
まるで、小犬のような瞳でケンシロウさんはうなった。
図体に似合わないそれがかなり可愛らしいものに感じた。
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