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車は薄ぐらい場所でとまると、ケンシロウさんは「降りるぞ」と言った。
俺はミコトさんに連れられるようにして、車から降りた。

そこは何処にでもあるような、何の変哲もない町中の家だった。

「ほら、寒いだろ、中は少しはマッシだから」

ケンシロウさんはそう言って、俺の肩を抱くと、ミコトさんに鍵を開けるように言った。

そして通された家の中は、汚かった。

俺は思わず、目をそらした。

ミコトさんは「ちょっと散らかっているけど」と言ったが、俺にはどうしても理解出来なかった。
そこにはたくさんの本が乱雑に散らばり積まれていたからだ。

「大丈夫」

「え?」

俺が心配して本を眺めているとミコトさんは

「変なエロ本とかはないから安心して」

と、言った。
だが、俺が気にしているのはそんなことではなくて。


「い、いえ、そうではなくて、これ、崩れてきたり…」

そう、心の底から心配に思っていることを俺は口にした。

すると、ケンシロウさんは高らかに笑った。


「誘拐されたことより、そっちが心配なのか?」

「そっか、でも、大丈夫。頭に当たっても痛いだけで、なんともないから」

ミコトさんはさらっと、とんでもないことを言った。
痛いけど、なんともないとか、それはつまり、よく上から本が降ってきている発言じゃないか。
俺は痛いのは好きじゃないし、それに、

「…でも…」
俺は言葉を紡いだ。

「「でも?」」
二人とも不思議そうな顔をして、俺を見つめた。


「本がかわいそうです」
俺はまるで自分の意志とは全く別のものが話しているような感覚でそう言った。

「「…え?」」
ミコトさんもケンシロウさんも固まった。

俺はハッと我にかえって、首を振った。
無意識って怖いな。

「あ、うわ。あ、すみません、なんでもないです」

急に恥ずかしくなって俺は謝った。
どうしてそんな言葉が今ここで出てきたのかさえもわからないが、どうしてだろうか、本当にそう思った。


「…ぷっ」

ミコトさんは笑いながら俺の手を握った。

「そうだな、かわいそうだよな、本が」






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