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=土屋side=
「俺の名前はミコト」
俺の隣に座った美人さんはそう言って、笑った。
とりあえず、無視できない俺は「はい」と頷いた。それだけで精一杯だった。すると美人さんはにっこりと笑い、俺の肩に手をまわして、
「で、あいつは、ポチ」
と、運転席に座る相方をさした。
「ミコちゃん、俺は、ケンシロウだって」
ちょっとふてくされたような声で、彼、ケンシロウさんはこっちを向いた。
だけど、すぐに前を向いてしまう。
気がついてしまった。
ヤキモチやかれたって。
***
車は俺を乗せたまま、知らない道をひたすら走った。
俺は怖いとは思わなかった。
どうしてだろう。
この二人からは悪意をまるで感じなかったんだ。
いや、こうして誘拐されていることには変わりないのだが、少しも怖いとは思わなかった。
思えなかった。
あまりにも二人が、優しい目をしていたからだ。
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