63
自宅について、ドアを開けると、電気のついていない部屋。
「あれ?」
それはこんなにも暗いものだっただろうか?
俺は首をかしげた。
不思議だ。淋しいと感じない。
ただいま、と言っても、返事はないけど。
咳をしても、一人だけど。
心の中にはさっきまで、ずっと一緒にいた杉田がいてくれたから。
「!」
急に携帯のバイブがなった。
俺は慌てて、携帯をポケットから取り出した。
ナオキからだった。
「も、もしもし」
俺はこわばった声で出た。緊張してしまったんだ。
「ナオキどうした?」
できる限りの平然を装いながら、俺は、バクバクなる心臓を抑えた。
「…?」
電話の向こうからは声がしない。
なんだろう、泣いているような、気配はしたのだけど。
「ナオキ?」
俺は呼びかけた。呼びかけたけど、返事はなかった。
そして、何の会話もないままに電話は切れた。
俺は、どうしていいのか、わからなくなった。
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