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「お前ら、自習だ! 俺は菅野くんを保健室につれていくから、サボりたい奴はサボれ! じゃあな!」
「…………」
「…………」
ぽかーん、と、みんな、口を開いている。
そんな中、俺は蓮見に引きずられるように、美術室を後にした。
その時、中佐都は一人、涼しい顔をして窓の外を見つめていた。
俺はその涼しげな顔が無償にむかついた。
やっぱり中佐都俺はあんたが嫌いだ。
*****
昨日、北王子は寂しそうに中佐都のことをかばった。
「一樹は、悪い奴じゃないんだよ。ただね」と言葉を紡いで。
俺は「不器用なだけだろ?」と口にした。
すると北王子は意外そうに俺を見上げた。
「……なんていうの、同じクラスだし」
ただ一方的にライバル視しているだけだけど。
俺はずっと中佐都のことを見てきたんだ。
なんていうか、わかるんだ。
「さっきのは、ちょっと恥ずかしかったんじゃないか?」
「わかる?」
北王子は嬉しそうにほほ笑んだ。
「ああ、まぁ…」
俺はぎこちなくうなずく。
すると北王子は「ありがとう」といとおしむように言葉を紡いだ。
その表情にぐらりとくる。
決して俺には向けられたわけではない、笑顔。
俺はまた中佐都に負けた気がした。
だから、あの時、俺は君を抱きしめた。
幼稚なことに、それだけで、一人占めできた気がしていたんだ。
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