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「土屋?」
「本当だ、本当に」
でもずっと逃げていた。自分の気持ちから。だって、さ。怖かったんだ。
ただ怖くて仕方なかったんだ。
友達じゃない、一線を越えてしまうこと。
戻れなくなりそうで、離れていきそうで。
ただ安定した関係のままでいいと、考えて、知らず知らずに、俺は…逃げて。
踏みねじってばかりいて。
「今更、かも、しれなねぇけど」
俺はそう言って、杉田の頬に触れた。
ああ、涙で滲んで、杉田の顔がよく見えないや。
でも、今、君が、微笑んでいること
どうしてだろう。
わかってしまった。
「土屋、俺言ったよね。また泣いたら、キスするかもって」
「うん…」
「覚えているよな?」
「あたり前だろ……」
「じゃあさ、どうして、泣いているんだよ?」
「それは…」
俺は目線をそらした。
まるで、これでは俺がキスしてほしいから泣いているようじゃないか。
恥ずかしいじゃないか。
どうしたらいいのかわからない。
わからないけど、杉田が嬉しそうに、笑うから、いいかなって、思った。
そして、俺たちは何も言ず、ただただただ唇を合わせた。
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