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幸崎先生の場所を変更しよう発言から少しして、一番初めに口を開いたのはナオキだった。
「じゃあ、俺、帰る。ややこしいことはごめんだから」
場所を移すまでもなく引き下がると、ナオキは手を振る。
俺は、慌てて、その手を引きとめた。
せっかく会えたんだ。
こうして言葉を交わせるまで近くにきてしまったんだ。
このまま何もなく別れたくない。
たとえそんな資格が俺にはなくても。
俺はナオキに伝えたいことがあった。
「そのさ、昔は…」
俺は過去にあったことを謝ろうとした。
昔、ナオキがいじめられていた時、俺は全力で相手を粉砕した。
それが正しいと思っていた。
それがナオキのためだと、愛情なんだと。
馬鹿みたいに疑わなかった。
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