29
俺は心配になった。
久しぶりに弟の姿を見たことよりも、ただ疑問ばかりがここにはあった。
義務教育だって、さぼったらいけないんだ。
高校とか、内心がずたぼろになってしまう。
俺は、ナオキに声をかけようとした。
だが、俺にはもうそんな権利はないんだと、足がすくむ。
もう、いいか。
俺がどうこうしても、
ナオキの人生は変わらない。
ナオキ自身が変わらない限り、
ナオキの環境はそのままだ。
俺が割り込んでもしかたないんだ。
そう思って、俺は商店街から去ろうとした。
杉田には明日にでも話せばいいか。
急ぐようなことでもないし。
「!」
音がした。
人が人を殴った音。
俺は背中を向けていたナオキの方に
振り向く、
反射的だった。
だから、何がどうなっているとか、
想像もしてなかったんだ。
まさか、杉田が、ナオキに殴られているだなんて。
そして、杉田がナオキを殴り返し、
徐々に二人が喧嘩になっていってしまっているだなんて。
俺は駈け出す。
「どうして、二人が喧嘩してんだよ!」
それ以外に、言葉はみつからなかった。
[*前] | [次#]
目次に戻る→