12
チャイムが鳴った。
下校時刻だ。
俺は今も、昨日の屋上のことで、北王子のことで頭が一杯だった。
「おーい。菅野、これ、頼まれてくれないか?」
「あ、はい、任せてください」
………しまった。
条件反射に引き受けたが、このスケッチブックの山は何なんだろうか。
考えた。考えてみたものの、考えたところで仕方ないので、俺はとりあえず運ぶことにした。
一人じゃ辛い。
俺は……
いつからだろう。
はじめて君を見た時からだろうか?
はじめて君の笑顔を知った瞬間だろうか?
はじめて君の優しさに触れてしまった瞬間だろうか?
そりゃ、転校初日、北王子が供託から出てきたときはやばかった。
俺は我を忘れて叫びたくなった。
だって、あんなにも可愛い女の子だと思っていたのに、制服がスカートじゃないの。
びびった。びびったよ。
はじめてこの学校の制服に文句を言ってやりたい気持ちになった。
いや、今まで不都合なんてなかった。
だけどさ、女子も男子も上に着るブレザーが同じなんだから、供託か何かに下を隠されたら、可愛い男子を女の子と間違えてもしかたない。
まぎらわしんだよ!
いや、北王子、が、悪いわけじゃないが。
「はぁ…」
現実逃避はやめよう。
俺は痛む足腰で前に進む。
誰か助けて、と言いたい。
ついつい引き受けてしまったが、この荷物を美術室まで一人で運べそうにない。
何回かに小分けしてもいいが、ここまで運んできたんだ、今更そんな変更は…
ああ、馬鹿らしい。
都合のいい人間なんて馬鹿らしい。
抱え込んだダンボール箱に詰め込まれた大量の紙を俺はにらんだ。
溜息が出た。
「ありえん…」
この階段を上れと言うのか。
俺は美術室に続く階段を見上げた。
誰かと叫びたくなった。
が、俺は戦力外と出くわしただけだった。
北王子。
タイミング悪いよ。
俺、君には、はし以上に重たいものを持たせたくない。てか、絶対に持たせない。
だから、天然お人よしに見つからないように、俺は隠れようとした。が、
「大丈夫?」
と君が…
ああ、無償の愛。
にこやかに心配そうに俺を見つめる君。
「お手伝いしようか?」
華奢な腕を差し出されても、困る。
俺はその華奢な腕にこの馬鹿重たいスケッチブックという名の荷物を持たせたくない。
渡したくない。
けど、北王子と少しでも一緒にいたい。
なんて…。
俺も末期だな。
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