その過去で…




「杉田―!」

「ぅえ…っ!」

幸崎先生がものすごい顔で追ってくる。
怖い。
俺は震える足で、逃げていく。
それでも幸崎先生は追ってくる。
どうしてなんだろう。
俺を監視しておく役目だからか。

くだらない。

くだらないよ…


「誰が捕まるかよ!」

「ちょっ、待って」



ずってーっん!

と、幸崎先生は転んだ。
俺はつい「大丈夫か?」と、手をさし伸べてしまう。
潤んだ目をした幸崎先生は「ありがとう」と言いながら、俺の手に捕まって、立ち上がると、にっこりと笑った。

「捕まえた!」


それは、それは、楽しそうな笑顔でした。
俺が、思わず、固まってしまったくらいだ。


「杉田、手」

幸崎先生は俺の切れた手を見て、しゅんとした顔をした。

「え、ああ、大丈夫だからさ」

「保健室に行こう…!」

「は、俺は今日はもう帰りたいんだ」

「帰りたいって、学校にいたくないだけだろ、お子様」

「うるさいっ!」

俺は幸崎先生の手を払おうとした。
でも、払えなかった。


「せっかくだし、遊びに行こうよ!」


おごるから。と。


幸崎先生は笑った。可愛らしく、笑った。

断れなかった。






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