35
温かいものが頬に触れた。
俺はまどろみから、目覚める。
此処は何処なんだろう。
ぼんやりとした意識じゃ、何もわからない。
「いい度胸だな。土屋」
「え?」
背中が凍りついた。
目の前には眉間にしわを寄せた先生がいる。
「あ、今、授業でした?」
俺はわかっていて聞いた。
「わかってて寝ていたのか?」
片倉先生にそう言われて、俺は正直に「……そうですね」と答えた。
嘘をつくのは嫌いだった。とぼけるのも本当は好きじゃなかった。
でも、時に嘘もこの世の中には必要なのかもしれないことも知っていた。
それでも俺は嘘が嫌いだった。
「昨日、眠れてなくて、すみません」
「よし、わかった」
「!」
勢いよく、片倉先生は俺の頭をつかんだ。
そして、にっこりとほほ笑んだ。
「今から相談室に行こうか?」
「はい?」まだ授業中ですよ、と俺は答えた。
そんなこと気にするもんか、と片倉先生は笑った。
仮にも、風紀委員会の鬼顧問が、だ。
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