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=幸崎side=
俺は教師になって、初めて自分のクラスをもった。
不安でしかたなかった。
だけど、土屋という男子生徒が、いろいろと手伝いをしてくれた。
彼は言葉数はすくなかったけども、俺が困っていたら、そっと手を差し伸べてくれる存在だった。
だからさ、正直、腹がたったんだよね。
いつも土屋は誰にでも優しかったが、誰も特別にはしなかった。
なのに、杉田にはかなりなついていたんだ。
ああ、腹が立つ。
なんで、あんなのがいいわけなんだろう。
そしてどうして俺がこんな気持ちになれなくてはいけないのか。
これじゃ…まるで…
「ふざけんじゃない!」
「!」
勢いよく俺の座っている椅子のまん前の相談室の扉が開いた。
俺はびっくりして、かまえてしまう。
だが、
「つ、土屋?」
そこにいたのはちょっと背の低い可愛い顔だった。
全くさっきの声に似つかわしい。
というか、どうして、土屋がこの相談室の扉を思いっきりあけたのだろう。
「幸崎先生、どうして、あ、れ?」
間違えたのかなって、首を傾げる土屋の後ろから「いいって、やめろ」と言いながら走ってくる杉田と目が合う。
俺は杉田の担任ではなかったので、こうして、面と向かうのは初めてだった。
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